「武将列伝」(ぶしょうれつでん)
(初出・・・昭和34年〜38年「オール読物」、「小説中央公論」、「週刊現代」)
(刊行社・・文藝春秋、文春文庫全6巻)
(分類・・・・史伝)


(写真)武将列伝
 海音寺潮五郎氏は、その生涯の間に多くの史伝文学を手がけた。史伝文学とは、作品中にフィクションを交えず、史実を徹底的に追求することによって成立する文学形式である。
 小説には、作者が想像して作り上げた人物や話が存在してストーリーが展開していくが、史伝文学にはそれは許されない。史伝文学は、歴史上の人物や出来事に対し、あくまでも真摯に史実を追求して書くことを要求されるのである。
 海音寺氏は、明治中期以後衰退した史伝文学の復興を目指し、その生涯の中で多くの史伝文学を手がけたが、その代表作の一つと言えるのが、本作『武将列伝』である。

 『武将列伝』には、悪源太義平から勝海舟まで、延べ33人の歴史上の人物が、海音寺潮五郎のの精魂込めた筆で描かれている。
 史伝文学と聞くと、何だか非常に読みにくく、難しいものと勘違いされやすいが、海音寺氏は、史伝と言うものを一般の人々にも馴染みやすく、なおかつ読み易くするため、小説風に話を進め、歴史の舞台の中へ読者をごく自然に誘っていく。
 前述のとおり、史伝文学とはあくまで史実を追い求める文学形式であるが、海音寺氏はそれを十分に踏まえながらも、ある時は作品の中に自分の姿を出し、自説の紹介や、その人物に対する評価まで行っている。
 また、現在刊行されている『武将列伝』は、時代順に改められ、整理されて収録されているので、読者にとっても、日本史の一つの流れを掴むのに重宝するになると言えよう。


戻る
戻る